こんにちは、打楽器奏者、アレクサンダーテクニー教師の純太郎です。
普段はクラシック系打楽器のレッスンや演奏活動をしながら、BodyChance認定アレクサンダー・テクニーク教師としても活動しています。
この記事では、「がんばって練習しているのに成果が出ない」「本番で思うように力が出せない」と感じている音楽家に向けて、アレクサンダー・テクニークというアプローチを紹介します。身体の使い方だけでなく、考え方や取り組み方の質を変えることで、あなたの音楽が大きく変わるかもしれません。
1. アレクサンダー・テクニークとは?
アレクサンダー・テクニークは、私たちが無意識に行なっている動作の直前に、あらかじめ「頭が自由に動くことができて、自分全部がそれについていく」という刹那の意図を挟むことで、より調和のとれた使い方に導く方法です。
言い換えると、「特定の何か(例えば楽器の奏法)を直接改善する」というよりも、「自分自身の使い方そのものを改善する」ための方法です。演奏中に何かがうまくいかないとき、つい技術的なことばかりに目が向きますが、その前提となる“自分”に働きかけるのがアレクサンダー・テクニークです。
身体感覚を磨くというよりも、「動きの方向性に対する意図」や「周囲からの刺激に対してどう反応するか」という、根本的な関わり方を見直していくのが特徴です。
2. なぜ音楽家にアレクサンダー・テクニークが必要なのか?
音楽家にありがちな悩みとして、次のようなものがあります:
- 呼吸が浅くなる
- 音のコントロールが効かない
- 慢性的な肩こりや腰痛がある
- 本番で緊張して手が震える
こういった問題に直面したとき、よくある対処法としては、
- もっと練習する
- 身体を鍛える
- 根性で乗り越える
といったアプローチが取られがちですが、それがさらに「がんばりグセ」や「過剰な努力」につながり、かえって本来のパフォーマンスを妨げてしまうこともあります。
アレクサンダー・テクニークは、そうした状況に対して、「新しい努力の方向性」を提案してくれます。無意識に突き進むのではなく、意図的に“やらない選択肢”を持つことで、自分の可能性に新たな扉が開かれるかもしれません。
3. こんなケースにこそ役立つ
🎵 楽器の構えで無理をしている
構えた瞬間から身体全体が固まってしまうことは、音楽家なら一度は経験があると思います。その「構える」という行為の前に、ほんの一瞬「頭が自由でいて、自分全部がついていく」という“意図の時間”を挟むだけで、動きの質が大きく変わります。
この短い意図の時間こそが、自分の動きを客観的に観察するチャンスであり、それがあるだけで「構えること」による緊張感はぐっと減ります。
🎵 呼吸がうまくいかない
「もっと吸おう」とすると、かえって身体が固くなる。これは管楽器奏者や声楽家によくある現象です。アレクサンダー・テクニークでは、“吸えるようにする”よりも、“ちゃんと吐く”ことを重視する場合があります。
しっかり吐けば、身体は自然と次に空気を吸える状態に整っていく。呼吸という「流れ」を意識することが、結果として豊かな音色や安定したブレスにつながります。
🎵 緊張で本番に力が出せない
本番で緊張すると、無意識に「固めてなんとかしよう」とするのもよくある反応です。でも、そういうときほど、ほんの少し立ち止まり、「いま自分は何をしているのか」を静かに観察する時間を持つことで、心身に余裕が生まれます。
アレクサンダー・テクニークでは、このような“自分自身に対する気づき”が、演奏の安定につながる大切な要素とされています。
4. よくある誤解と、リアルな体験談
❌ アレクサンダー・テクニークを受けたらすぐ演奏が上手くなる?
→ 残念ながら、アレクサンダー・テクニークは即効性のある「魔法のテクニック」ではありません。ですが、「何が自分の邪魔をしていたのか」が見えるようになるだけで、練習の質や本番の感覚が一気に変わることもあります。
体験談①:ベテラン・アマチュア指揮者(徹さん)
徹さんは趣味でホルンと指揮をされている方で、アレクサンダー・テクニークのグループレッスンを3回受講されました。
緊張すると、頭と脊椎の関係が悪くなり、無意識に力んでしまうことを学びました。
力んでいることを自覚することが難しかったです。
でも、“動作の前に脳を解放する”ことを覚えてから、自然な動きが生まれるようになり、日常生活にも活かせそうだと感じました。
このように、「何をやるか」よりも「やる前にどんな自分でいるか」という視点は、プロ・アマを問わず、演奏や表現の質を大きく左右するのです。
体験談②:クラリネット奏者とタンギング
とあるクラリネット奏者の生徒さんから、「昔よりタンギングが遅くなったように感じる」という相談を受けました。
演奏を観察すると、特にスタッカートのときに呼吸が浅く、腹部に力が入りすぎている様子が見受けられました。
詳しく聞いてみると、「速く」「強く」「圧力をかけて」といった言葉のイメージが頭の中にあり、それがかえって動作を妨げていたのです。
このような場合、「もっと吸おう」ではなく「ちゃんと吐こう」というアプローチに切り替えることで、呼吸の流れが改善し、結果的にタンギングもスムーズになりました。
5. まとめ — アレクサンダー・テクニークは、思考と動きの間に“余白”をつくる
アレクサンダー・テクニークは、「もっとがんばる」のではなく、「いったん立ち止まり、自分の反応や状態を見つめ直す」ための方法です。
「何をどう動かすか」ではなく、その前に「どんな自分でいるか」を問い直す。その意図をもつだけで、演奏や練習がまったく違うものになっていきます。
「練習しても報われない」と感じている方こそ、ぜひ一度、“がんばり”の方向性を変えてみてください。あなたの演奏に、静かな変化が訪れるはずです。
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